2026年9月20日
おしりが突然ずきずきと痛みはじめ、腫れや熱をもつ。座るのも歩くのもつらい。こうした症状のとき、肛門周囲膿瘍という病気が考えられます。肛門のまわりに細菌が入り込んで膿がたまった状態で、痛みの強さが特徴です。
市販薬で様子を見ても膿はなくならないため、治療は膿を出すことが中心になります。このページでは、症状の見分け方から、膿を自分で出してよいのか、切開したあとの生活、治るまでの期間までをまとめます。
要点
どんな病気か 肛門の内側のくぼみから細菌が入って化膿し、肛門のまわりに膿がたまった状態
症状 ずきずきと強くなる痛み、腫れ、熱感、38度前後の発熱。座る・歩く・排便で痛みが増すことがある
治療 切開して膿を出す処置(切開排膿)が原則。市販薬や抗菌薬だけで膿がなくなることは期待しにくい
自分で膿を出さないでください 針で刺す、強く押し出すといった自己処置は、感染を広げるおそれがあります
受診の目安 強い痛みに発熱を伴う場合は、当日から翌日のうちにご相談ください。当院は日帰りでの切開排膿に対応しています
肛門周囲膿瘍とは|肛門周りに膿がたまる病気
下痢が続いていると、ふだんは便が入り込まないくぼみに細菌が入りやすくなるとされています。働き盛りの男性に多いとされていますが、女性や高齢の方にも起こります。
いぼ痔との見分け方|痛みの出方が違います
おしりが痛いとき、多くの方はまず痔を思い浮かべます。ただし、いぼ痔(痔核)は血管がうっ血して起こるもので、出血や脱出が主な症状です。肛門周囲膿瘍は細菌感染による膿のたまりで、じっとしていてもずきずきと痛み、時間とともに痛みが強くなる点が異なります。発熱を伴うこともあります。
肛門周囲膿瘍の初期症状|ずきずきする痛み・腫れ・発熱
次のような症状がそろう場合、肛門周囲膿瘍が考えられます。
痛み ずきずきと脈打つような痛みで、日を追って強くなります。座る、歩く、排便するといった動作で増すことがあり、夜に眠れないほどになることもあります。
腫れ・しこり・熱感 肛門のまわりが赤く腫れ、触ると熱をもっています。しこりを触れることもありますが、膿が深い位置にある場合は外から見てわかりにくいことがあります。
発熱・寒気 38度前後の熱が出ることがあります。深い位置に膿がたまった場合は、高い熱が出やすいとされています。
膿が出る 膿が自然に破れて出てくることがあります。出た直後は痛みが軽くなりますが、治ったわけではありません。
おしりのしこりについてはおしりにできもの、痛みについてはおしりが痛いでもまとめています。
日本大腸肛門病学会:急にお尻がはれた方へ
膿は自分で出してよいのか|自己処置はおすすめできません
痛みが強いと、自分で膿を出せないかと考える方は少なくありません。針で刺す、強く押し出す、市販の吸い出し用の軟膏を使うといった方法がインターネット上では紹介されています。
自分で膿を出すことをおすすめできない理由
膿のたまりがどこまで広がっているかは、外から見てもわかりません。浅く見えても、奥に続いていることがあります。
十分に出しきれないと、残った膿から炎症がぶり返します。
清潔でない器具を使えば、別の細菌を入れてしまうおそれがあります。
傷の位置や深さによっては、あとの治療がかえって難しくなることがあります。
膿が自然に破れて出た場合も同じです。痛みが軽くなっても、膿の通り道が残っていることがあります。出てしまったあとでも、一度診察を受けることをおすすめします。
肛門周囲膿瘍の原因|肛門のくぼみから細菌が入って化膿します
最も多いのは、肛門腺への細菌感染です。原因となる菌は大腸菌やブドウ球菌など、もともと腸の中にいる菌が中心です。下痢や便秘をくり返している方、長時間座って仕事をされている方では起こりやすいとされています。
糖尿病などで感染を起こしやすい状態にある場合や、免疫を抑える薬を使っている場合も注意が必要です。一方で、思いあたる原因がないまま起こることも少なくありません。
くり返す場合は、ほかの病気が隠れていることがあります
日本大腸肛門病学会の解説では、切れ痔から生じるもの、クローン病に合併するもの、結核、HIV感染、膿皮症などが関係する場合があるとされています。何度もくり返す方、若い方で発症した方では、背景の病気を調べる検査をご提案することがあります。
診断|見て触れる診察と、必要に応じた画像検査
問診|症状の確認と経過の把握
診察の最初に、いつから・どのような症状があるかを詳しく伺います。肛門周囲の痛みがいつから始まったか、痛みの程度、発熱の有無、膿が出ているかどうかなど、具体的な症状を確認します。
また、過去に肛門周囲膿瘍や痔瘻の既往がないか、下痢や便秘などの便通異常、クローン病などの基礎疾患の有無についても確認します。これらの情報は、診断や治療方針を決める上で重要です。
視診|肛門周囲の観察
視診では、肛門周囲の皮膚の状態を目で確認します。肛門周囲に腫れや発赤(赤み)がないか、皮膚の色の変化、膿の排出の有無などを観察します。
肛門周囲膿瘍では、肛門の周りに赤く腫れた部分が確認できることが多く、触ると熱感があります。膿瘍が皮膚の近くにある場合は、外から見て腫れがはっきりとわかります。
触診|膿瘍の位置と大きさの確認
触診では、指で肛門周囲を優しく触れて、膿瘍の位置や大きさ、硬さを確認します。膿瘍がある部分は腫れて柔らかく、波動感(中に液体が溜まっている感触)があります。
また、必要に応じて肛門内に指を挿入する直腸指診を行うこともあります。これにより、肛門の内側に膿瘍がないか、痔瘻の有無などを確認できます。ただし、痛みが強い場合は無理に行わないこともあります。
肛門周囲膿瘍に必要な画像検査|MRI・CT・超音波検査
視診・触診だけでは膿瘍の位置や大きさが十分に把握できない場合、画像検査を行います。特に、深い場所にある膿瘍(深部膿瘍)や、痔瘻への進行が疑われる場合には画像検査が重要です。
MRI検査(1番診断能力が高い)
肛門周囲膿瘍の診断において、MRI検査が最も有用とされています。MRIは軟部組織の描出に優れており、膿瘍の位置、大きさ、範囲、そして痔瘻の有無を詳細に確認できます。特に、複雑な痔瘻を伴う場合や、再発を繰り返す場合には、MRI検査が欠かせません。
CT検査
CT検査は、膿瘍の範囲や周囲の組織への広がりを確認するのに有用です。特に、深部膿瘍や広範囲の感染が疑われる場合に行われます。ただし、MRIと比較すると軟部組織の描出はやや劣ります。
肛門周囲膿瘍のCT検査イメージ:膿瘍の範囲や深さを確認します。
超音波(エコー)検査(簡便ですぐにできる検査)
超音波検査は、簡便に行えるため、膿瘍の位置や大きさを確認する初期検査として用いられることがあります。リアルタイムで観察できるため、膿の溜まり具合を確認しながら検査ができます。
超音波(エコー)検査イメージ:皮膚に近い膿瘍の位置や大きさを確認します。
血液検査|炎症の程度を確認
血液検査では、白血球数やCRP(炎症反応)の値を測定し、感染や炎症の程度を確認します。肛門周囲膿瘍では、白血球数やCRPが上昇していることが多く、感染の重症度を判断する指標となります。
また、糖尿病やHIV感染症などの基礎疾患が疑われる場合は、血糖値や免疫機能の検査も行います。
痔瘻を合併しているか診断
肛門周囲膿瘍は急性期の状態であり、これが慢性化すると痔瘻になります。初診時に既に痔瘻が形成されているかどうかを見極めることが重要です。
痔瘻が疑われる場合は、MRI検査や肛門鏡検査で瘻管(トンネル)の有無を確認します。瘻管が確認された場合は、根治には外科的な痔瘻手術が必要になります。
治療は切開排膿|市販薬や抗菌薬だけでは治りにくい理由
治療は、膿を体の外に出すことが基本です。膿は袋状の空間にたまっており、飲み薬の成分がその内部まで十分に届きにくいため、抗菌薬だけで膿がなくなることは期待しにくいとされています。市販の痔の薬も、いぼ痔や切れ痔の症状をやわらげる目的でつくられており、たまった膿を減らすものではありません。
抗菌薬は、炎症が強いときや熱があるとき、持病があって感染が広がりやすいときに、切開排膿とあわせて使います。
抗菌薬治療|補助的な役割
抗菌薬は補助的な治療として使用されます。抗菌薬だけでは膿瘍は治癒しないため、必ず切開排膿と併用します。
肛門周囲膿瘍の原因菌は、大腸菌やブドウ球菌、嫌気性菌などが多いため、これらに効果のある抗菌薬が選択されます。一般的には、セフェム系抗菌薬やペニシリン系抗菌薬、嫌気性菌に効果のあるメトロニダゾールなどが使用されます。
抗菌薬を使用するタイミング
- 切開排膿手術の前後
- 発熱や全身状態の悪化がある場合
- 糖尿病などの基礎疾患があり、感染が広がりやすい場合
- 深部膿瘍で広範囲の感染が疑われる場合
切開のあとの経過|痛み・入浴・排便・仕事への復帰
切開後にどう過ごすかについて、よくいただくご質問をまとめます。傷の大きさや深さによって変わるため、実際の指示は診察時にお伝えします。
痛み 切開前の強い痛みは和らぎますが、傷の痛みはしばらく残ります。鎮痛薬を処方します。
入浴 シャワーでやさしく洗い流していただくことが多いです。湯船については傷の状態をみて判断します。
排便 便秘も下痢も傷に負担をかけます。必要に応じて便をやわらかくする薬を使います。排便後は洗い流して清潔に保ってください。
仕事 デスクワークであれば、傷の状態と痛みの程度によっては早い時期から可能です。長時間の運転や立ち仕事、重いものを持つ作業は、傷への負担を考えて時期を相談します。
通院 傷の治り具合を確認するため、しばらく定期的にご来院いただきます。
治るまでの期間と、痔瘻が残る場合
切開したところは、縫い合わせずに内側から新しい組織で埋まっていくのを待ちます。傷が浅ければ比較的短い期間で、深い場合はそれ以上かかることがあり、個人差があります。見通しは、傷の状態を見たうえでお伝えします。
注意が必要なのは、膿が出て痛みがなくなっても、膿の通り道が管として残ることがある点です。この状態を痔瘻(あな痔)といいます。膿が自然に出た場合も、切開して出した場合も起こりえます。
痔瘻が残った場合、自然に治ることはまれとされ、根本的な治療には手術が必要になります。痔瘻の症状、分類、手術については別のページで詳しく解説しています。
痔瘻(あな痔)とは|初期症状・原因と手術による治し方はこちら
肛門周囲膿瘍をくり返す場合に考えること
同じ場所の腫れと痛みを何度もくり返す場合、痔瘻ができている可能性があります。また、下痢や便秘が続いている、クローン病などの病気が背景にあるといった事情が関係していることもあります。くり返しているという経過そのものが診断の手がかりになりますので、受診の際にお伝えください。
受診の目安|発熱を伴う強い痛みは、その日のうちにご相談ください
肛門周囲膿瘍は、時間の経過とともに痛みが強くなっていくことが多い病気です。次のような場合は、早めの受診をおすすめします。
当日から翌日の受診をおすすめする症状
おしりの強い痛みに、38度前後の発熱を伴っている
痛みで座れない、眠れない
肛門のまわりが赤く腫れて、熱をもっている
膿が出たあとも、腫れやしこりが残っている
当院は消化器内科・肛門科を標榜しており、日本大腸肛門病学会認定 大腸肛門病専門医が診察します。毎週火曜日は女性医師が肛門科の診察を担当しています。診察は15歳以上の方を対象としています(乳児のおしりの腫れは経過が異なるため、小児科・小児外科へのご相談をおすすめします)。
おなかとおしりのクリニック 東京大塚 JR大塚駅南口より徒歩1分 TEL 03-6912-5995
肛門周囲膿瘍に関するよくある質問
診察のなかでいただくことの多いご質問をまとめました。
肛門周囲膿瘍の膿を自分で出してもよいですか?+
おすすめできません。膿の広がりは外から見てもわからず、出しきれないと炎症がぶり返します。清潔でない器具を使えば別の細菌を入れるおそれもあります。医療機関で処置を受けてください。
肛門周囲膿瘍は自然に治りますか?+
膿が自然に破れて出ることはありますが、それで治ったとは限りません。膿の通り道が残り、痔瘻になることがあります。痛みが軽くなっても一度診察を受けてください。
市販薬や抗生物質だけで治りますか?+
膿は袋状の空間にたまっており、飲み薬の成分が内部まで十分に届きにくいため、抗菌薬だけで膿がなくなることは期待しにくいとされています。市販の痔の薬も、たまった膿を減らすものではありません。
切開は痛いですか?+
局所麻酔を行ってから切開します。炎症が強いと麻酔が効きにくいことがあり、その場合は方法を変えます。膿が出ることで、それまでの張りつめた痛みは和らぎます。
切開のあと、仕事はいつから行けますか?+
傷の状態と痛みの程度によります。デスクワークであれば早い時期から可能なことが多く、長時間の運転や立ち仕事、重いものを持つ作業は時期を相談します。診察時に具体的にお伝えします。
肛門周囲膿瘍の治療は入院が必要ですか?+
皮膚に近い位置の膿瘍であれば、当院では日帰りでの切開排膿に対応しています。深い位置に及んでいる場合や広い範囲に感染がある場合は、入院での治療が安全と判断し、連携医療機関にご紹介することがあります。
肛門周囲膿瘍と痔瘻はどう違いますか?+
肛門周囲膿瘍は膿がたまっている急性の状態で、強い痛みが主な症状です。痔瘻は膿が出たあとに通り道が残った慢性の状態で、膿や分泌物で下着が汚れることが主な症状になります。
何科を受診すればよいですか?+
肛門科、または大腸肛門外科です。膿を出す処置が必要になるため、肛門の診療を行っている医療機関を受診してください。
放置するとどうなりますか?+
痛みや腫れが強くなり、膿が自然に破れて出ることがあります。膿の通り道が残って痔瘻になることもあります。まれですが、感染が広がって全身に影響が及ぶこともあるため、早めの受診をおすすめします。
参考
日本大腸肛門病学会「痔瘻(じろう,あな痔)ってなに?肛門周囲膿瘍ってなに?」(市民のみなさまへ)
日本大腸肛門病学会「急にお尻がはれた方へ」(市民のみなさまへ)
日本大腸肛門病学会編「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版(改訂第2版)」南江堂


まとめ
肛門周囲膿瘍は、肛門の周囲に膿が溜まる急性の感染症で、突然の激しい痛みや腫れ、発熱が特徴です。歯状線にある肛門腺に細菌が侵入することで発症します。
早期発見と適切な治療が重要です。 肛門周囲膿瘍は自然治癒することはほとんどなく、切開排膿手術による治療が必要です。抗菌薬だけでは治癒しません。激しい痛みや腫れ、発熱などの症状がある場合は、我慢せずに早めに肛門外科・大腸肛門科の専門医を受診してください。
当院では、肛門外科の専門医が迅速な診断と適切な治療を行っております。日帰り手術にも対応しており、患者さんの負担を最小限に抑えた治療を心がけています。肛門周囲の痛みや腫れでお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

監修:東京都豊島区おなかとおしりのクリニック 東京大塚
院長 端山 軍(MD, PhD Tamuro Hayama)
資格:日本消化器病学会認定 消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医・指導医
日本大腸肛門病学会認定 大腸肛門病専門医・指導医・評議員
日本外科学会認定 外科専門医・指導医
日本消化器外科学会認定 消化器外科専門医・指導医
日本がん治療認定医機構認定 がん治療認定医
日本消化器外科学会認定 消化器がん外科治療認定医
帝京大学医学部外科学講座非常勤講師
元帝京大学医学部外科学講座准教授
医学博士 など
院長プロフィール