2026年6月30日
大腸カメラ(大腸内視鏡検査)を受ける際、「鎮静剤を使ったほうが楽なの?」「麻酔は危険ではないの?」「本当に寝ている間に終わるの?」と不安に感じる方は少なくありません。
実際に、大腸カメラへの不安から検査を先延ばしにしてしまう方もいらっしゃいます。しかし現在では、鎮静剤を使用することで苦痛を軽減しながら検査を受けられる医療機関が増えています。
一方で、鎮静剤にはメリットだけでなく、運転制限や副作用など知っておくべき注意点もあります。
本コラムでは、大腸カメラで使用する鎮静剤(麻酔)の種類、痛みへの効果、危険性、費用、鎮静剤が向いている方の特徴について、消化器内視鏡専門医がわかりやすく解説します。
「鎮静剤」「麻酔」「全身麻酔」のちがい
大腸カメラの場面で患者さまから「麻酔をしてほしい」とご相談を受けることがよくありますが、医療現場で使われる「鎮静」「麻酔」「全身麻酔」は厳密には異なる概念とされています。誤解の多いところなので、最初に整理しておきます。

麻酔(anesthesia)
痛みや不快感を取り除くために薬を使う処置の総称とされています。作用する範囲や方法によって「局所麻酔」「静脈麻酔」「全身麻酔」などに分類されます。大腸カメラの場面で「麻酔をしてほしい」と言われるとき、多くの方は点滴から鎮静剤を投与する「静脈麻酔」を想定されていますが、医療側が単に「麻酔」と言った場合には、腸の動きを抑える鎮痙剤や、ポリープ切除時に使う薬剤などを指すこともあり、文脈によって指している内容が異なるのが混乱の原因とされています。
鎮静(sedation)
静脈麻酔のうち、意識を完全に消失させず、不安や苦痛を和らげる目的で薬を使う方法とされています。声かけに反応できる程度の「中等度鎮静」が、内視鏡検査では一般的な目標とされています。大腸カメラで「鎮静剤を使う」というのは、点滴からミダゾラムなどを投与してこの状態にすることを指します。
全身麻酔(general anesthesia)
麻酔のうち、意識が完全に消失し、自発呼吸も止まるため人工呼吸管理が必要となる状態を指します。手術室で外科手術を行う際に用いられる方法で、麻酔科医による管理のもとで行われます。通常の大腸カメラで行われることはありません。
「鎮静」と「全身麻酔」は連続的なもの
米国麻酔科学会(ASA)および日本麻酔科学会(JSA)の安全な鎮静に関するガイドラインでは、鎮静は意識レベルに応じて「最小限の鎮静」「中等度鎮静」「深い鎮静」「全身麻酔」の4段階に分類され、これらは明確に区切られるものではなく連続体(continuum)として扱われるとされています。投与量や患者さまの感受性によっては鎮静の状態が深い鎮静域や全身麻酔域に達することがあるため、内視鏡で行う「鎮静」も広い意味では静脈麻酔の一形態と位置づけられます。
鎮静剤あり・なし、それぞれのメリットとデメリット
大腸カメラを受ける際、鎮静剤を「使う/使わない」はご本人の希望と医学的な適応をふまえて選択することになります。それぞれに長所と短所があり、一律にどちらがよいとはいえないとされています。

鎮静剤あり|うとうとした状態で受ける
メリットとしてあげられること
検査中の痛みや不快感が和らぐ、不安や緊張がやわらぐ、検査中の記憶が残りにくい(健忘効果)、定期検査の継続率が上がるとされる、緊張による腸の蠕動が抑えられて観察しやすくなる場合がある、といった点が報告されています。
デメリット・注意点としてあげられること
検査後30分〜1時間程度のリカバリーが必要、当日の運転やバイク・自転車・機械操作ができない、呼吸抑制・血圧低下のリスクがわずかにある(モニタリングで対応)、高齢の方では覚醒に時間がかかることがある、検査の費用にわずかながら鎮静加算が上乗せされる、といった点があるとされています。
鎮静剤なし|意識をたもったまま受ける
メリットとしてあげられること
検査後すぐに帰宅・仕事復帰ができる、自家用車・自転車での来院が可能、薬剤による副作用の心配がない、検査中に医師とコミュニケーションを取りながら受けられる、といった点があるとされています。
デメリット・注意点としてあげられること
スコープがS状結腸や横行結腸の屈曲を通過する際にお腹の張りや痛みを感じやすい、緊張により腸の蠕動が強まり観察が難しくなる場合がある、痛みで途中の体位変換などへの協力が難しくなることがある、次回の検査へのハードルが上がりやすい、といった点が指摘されています。
大腸カメラの鎮静・鎮痛に使われる薬剤の種類
大腸カメラを楽に受けていただくために使われる薬剤は、作用の違いから大きく「鎮静薬」と「鎮痛薬」に分けられます。鎮静薬には、ベンゾジアゼピン系(ミダゾラム、ジアゼパムなど)、静脈麻酔薬(プロポフォール)があり、鎮痛薬にはオピオイド系(ペチジンなど)があります。患者さまが「鎮静剤」とまとめて呼ばれることが多いため、本コラムでも文脈に応じて「鎮静剤」「鎮静薬」「鎮痛薬」を使い分けながらご説明します。それぞれ作用機序が異なるため、目的に応じて単独もしくは組み合わせて使用されます。
① ミダゾラム(商品名:ドルミカム)
鎮静薬|ベンゾジアゼピン系
内視鏡検査の鎮静で国内で最も広く使われている薬剤とされています。投与から1〜2分程度で効果が現れ、健忘効果(検査中の記憶が残りにくい作用)も特徴です。万が一の過鎮静や呼吸抑制に対しては、拮抗薬のフルマゼニルで効果を中和できることも、安全性の観点で重要とされています。当院では日本消化器内視鏡学会(JGES)の『内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン』に準拠し、ミダゾラムをベースの鎮静薬として使用しています。
② プロポフォール(商品名:ディプリバン)
鎮静薬|静脈麻酔薬
作用時間が短く、覚醒の質がよい静脈麻酔薬とされています。覚醒後のすっきり感が比較的良好で、吐き気・嘔吐の副作用が少ないと報告されています。一方で、拮抗薬がない、注射時の血管痛がある、呼吸抑制が起こると影響が出やすいなどの特性があり、使用にあたっては麻酔管理に習熟した体制が望ましいとされています。海外では内視鏡領域で広く使われていますが、国内では使用に慎重な施設も多く、診療報酬上の取り扱いも施設によって異なります。
③ ペチジン(商品名:オピスタン)
鎮痛薬|オピオイド系
オピオイド系の鎮痛薬で、痛みそのものを抑える効果があります。鎮静薬とは作用機序が異なるため、ミダゾラム(鎮静)とペチジン(鎮痛)を併用することで、それぞれ単独で使用する場合よりも少ない量で十分な効果が得られやすく、鎮静と鎮痛のバランスの取れたコントロールが可能とされています。海外のガイドラインでもベンゾジアゼピン系薬剤とオピオイド系鎮痛薬の併用は内視鏡検査の標準的な選択肢のひとつとされています。当院では原則として、ミダゾラムとペチジンを併用したうえで大腸カメラを行っています。呼吸抑制やふらつき、吐き気の副作用が出ることがあり、検査中はモニタリングを継続しています。
鎮静剤を使ったほうがよいとされる方の特徴
国内外の臨床研究では、大腸カメラで痛みを感じやすい方の特徴がいくつか報告されています1)-3)。以下に当てはまる方は、鎮静剤の使用を検討されるとよい場合があるとされています。あくまで傾向であり、当てはまらないからといって痛みがないとは限らず、当てはまっても無鎮静で問題なく終わる方もいらっしゃいます。
① 女性の方
骨盤腔が男性より狭く、S状結腸の屈曲が強い傾向があるため、スコープ通過時の伸展による痛みが出やすいとされています。
② 40歳以下の若年の方
腹壁の緊張が強く、不安感も加わって痛みを感じやすい傾向があると報告されています。
③ 痩せ型の方・BMIが低い方
腹腔内のスペースが少なく、腸が固定されにくいため、スコープの押し込みでループ形成が起こりやすく、痛みが出やすいとされています。
④ 開腹手術の既往のある方(子宮・卵巣・虫垂など)
術後の腹腔内癒着により腸が固定されており、スコープによる伸展で痛みが出やすいと考えられています。婦人科疾患の術後の方ではとくに当てはまるとされています。
⑤ 検査前の不安が強い方
不安や緊張が痛みの感じ方を増幅させることが知られており、無鎮静で受けると過剰に痛みを感じる場合があるとされています。
⑥ 過去の大腸カメラでつらかった経験のある方
一度つらい経験をされた方は、心理的にも身体的にも次回以降の検査で緊張が強くなりやすいため、鎮静剤の使用が検査継続のために有用とされています。
⑦ 便秘で腸が長い方・憩室の多い方
腸管が長く屈曲が強い場合、スコープの通過に時間がかかることがあり、鎮静剤を併用することで検査がスムーズに進みやすいとされています。
鎮静剤を使うと大腸カメラの痛みはどのくらい減る?
大腸カメラの痛みには個人差がありますが、鎮静剤を使用することで検査中の不安や緊張が和らぎ、痛みや不快感を軽減できるとされています。
実際には「気づいたら検査が終わっていた」「ほとんど記憶がない」という感想を持たれる方も少なくありません。
ただし、鎮静剤を使用しても痛みを完全にゼロにできるわけではありません。腸の癒着が強い方や、長い腸をお持ちの方では、一時的に痛みを感じることがあります。
また、大腸カメラの苦痛は鎮静剤だけで決まるものではなく、内視鏡医の挿入技術や使用機器、炭酸ガス送気(CO₂送気)の有無なども大きく影響します。
そのため、「鎮静剤を使っているか」だけではなく、「どのような方法で検査を行っているか」も確認することが大切です。
鎮静剤を使った大腸カメラの流れ
前日からの食事制限と当日の腸管洗浄液(モビプレップなど)の服用で前処置を終え、便がほぼ透明な水様になったことを確認したうえで検査室へ移動します。検査着に着替えていただき、検査台に左側を下にして横になります。

点滴ルートを確保し、ミダゾラム(鎮静薬)とペチジン(鎮痛薬)を静脈内に投与します。続いて腸のけいれんを抑えるための鎮痙剤(ブチルスコポラミン、緑内障や前立腺肥大のある方ではグルカゴン)を併用することが一般的です。投与後1〜2分程度でうとうととした状態になり、検査を開始します。
観察のみの場合の検査時間は15〜30分程度とされますが、ポリープ切除を行う場合はその数や大きさによってもう少し長くなることがあります。検査中はパルスオキシメーター(経皮的動脈血酸素飽和度モニター)と自動血圧計で全身状態を継続的に観察します。
検査終了後はリカバリースペースで30分〜1時間ほどお休みいただき、ふらつきなく安全に歩行できることを確認してからご帰宅となります。
鎮静剤は危険?安全性とリスクについて
「麻酔は危険なのではないか」というご質問をしばしばいただきます。結論として、内視鏡検査における鎮静は、適切なモニタリングと拮抗薬の準備のもとで実施されれば、重篤な合併症はまれと報告されています。一方で、ゼロではないリスクがあることも事実とされており、以下のような点に留意する必要があります。
呼吸抑制:ミダゾラムなどのベンゾジアゼピン系薬剤では、量や個人の感受性によって呼吸が浅くなることがあります。パルスオキシメーターでの監視と、必要に応じた酸素投与・拮抗薬(フルマゼニル)の投与で対応されるのが標準的とされています。
血圧低下:鎮静により血管が拡張し、一過性に血圧が下がることがあります。とくに高齢の方や脱水のある方では注意が必要とされています。
過鎮静:意図した以上に深い鎮静域に達することがあり、覚醒に時間がかかる場合があります。拮抗薬で速やかに対応できる体制が重要とされています。
使用が原則禁忌または慎重投与とされる方:閉塞隅角緑内障、重症筋無力症の方ではベンゾジアゼピン系薬剤の使用が原則禁忌とされています。また、重症の呼吸器疾患・肝機能障害・腎機能障害のある方、睡眠時無呼吸症候群の方、ご高齢の方、妊娠中の方では、慎重な判断が必要とされています。検査前の問診で正確に情報をお伝えいただくことが、安全な実施のために重要です。
検査後の運転・仕事・帰宅について
鎮静剤を使用された場合、当日中は判断力や反射の低下、ふらつき、眠気が残ることがあります。安全のため、以下の点に留意ください。
運転:自家用車・バイク・自転車の運転は、検査当日は控えていただいています。公共交通機関でのご来院、もしくはご家族の送迎をお願いしています。シミュレーターを用いた研究では、ミダゾラム使用後数時間は反応速度が低下していたとする報告もあります。
仕事復帰:デスクワーク中心であれば翌日からの復帰は多くの場合可能ですが、当日の重要な意思決定、契約、高所作業、機械操作などは控えていただくのが安全とされています。
食事:検査後の食事は、ポリープ切除の有無や処置内容によって制限が異なります。観察のみの場合は通常通り食事できることが多いですが、ポリープ切除を行った場合は数日間の食事制限・運動制限・飲酒制限が必要となります。
鎮静剤を使った大腸カメラの費用
保険診療で大腸カメラを行う場合、検査自体は3割負担でおおむね6,000〜8,000円程度、ポリープ切除を伴うと20,000〜30,000円程度が目安とされていますが、検査内容・病理検査の有無・施設によって変動します。
ミダゾラムなどベンゾジアゼピン系の鎮静剤による静脈麻酔は、所定の管理料・薬剤料が保険算定の対象となります。一方、プロポフォールの大腸内視鏡での扱いは施設により異なり、自費負担を求められることもあります。具体的な費用は、ご予約時または検査前の説明時にご確認いただくのが確実です。
人間ドックや任意型検診として自費で受けられる場合、施設によって25,000〜50,000円程度の幅で設定されているのが一般的ですが、これも施設差が大きい部分です。
胃カメラと大腸カメラを同日に受けるときの鎮静剤の使用について
「胃カメラと大腸カメラを同じ日に済ませたい」というご希望は多くいただきます。同日検査の場合、鎮静剤は1回の投与で両方の検査をカバーできる場合と、それぞれで追加投与する場合があります。総投与量が多くなる可能性があるため、より慎重な経過観察が行われるのが一般的とされています。
同日検査のメリットは、前処置や来院の負担が1回で済むこと、休暇取得が1日で済むことなどがあげられます。一方、検査時間が長くなること、リカバリーも長めに見ておく必要があることはご留意いただく必要があります。当院では、ご希望と医学的妥当性をふまえて同日検査にも対応しています。
当院が鎮静下大腸カメラで大切にしていること
当院では、患者さまにできるだけ苦痛の少ない大腸カメラを受けていただくため、鎮静剤だけに頼らない検査体制を整えています。

・ミダゾラムとペチジンを併用した鎮静・鎮痛
・CO₂送気による検査後のお腹の張りの軽減
・軸保持短縮法を基本とした挿入技術
・Olympus EVIS X1による高精細観察
・AI内視鏡支援システムの活用
・検査後にゆっくり休める個別リカバリースペース
鎮静剤を使用しても、挿入技術が不十分であれば痛みが出ることがあります。当院では薬剤と技術の両面から、苦痛の少ない大腸カメラを目指しています。
よくあるご質問
よくあるご質問
参考文献
参考文献
- Takahashi Y, Tanaka H, Kinjo M, et al. Prospective evaluation of factors predicting difficulty and pain during sedation-free colonoscopy. Dis Colon Rectum. 2005;48(6):855-9.
- Park DI, Kim HJ, Park JH, et al. Factors affecting abdominal pain during colonoscopy. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2007;19(8):695-9.
- Eckardt AJ, Swales C, Bhattacharya K, et al. Open access colonoscopy in the training setting: which factors affect patient satisfaction and pain? Endoscopy. 2008;40(2):98-105.
- 日本消化器内視鏡学会. 内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版). Gastroenterological Endoscopy. 2020;62(9):1635-1681.
- 日本麻酔科学会. 安全な鎮静のためのプラクティカルガイド. 2022.
- American Society of Anesthesiologists. Continuum of Depth of Sedation: Definition of General Anesthesia and Levels of Sedation/Analgesia.(最終改訂 2019)
- ミダゾラム注射液、フルマゼニル注射液、プロポフォール注射液、ペチジン塩酸塩注射液 各添付文書(最新版).

記事監修:豊島区 おなかとおしりのクリニック 東京大塚
院長 端山 軍(MD, PhD Tamuro Hayama)
資格:日本消化器病学会 専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
日本大腸肛門病学会 専門医・指導医・評議員
日本外科学会 専門医・指導医
日本消化器外科学会 専門医・指導医
がん治療認定医
消化器がん治療認定医
帝京大学医学部外科学講座非常勤講師
元帝京大学医学部外科学講座准教授
医学博士 など
院長プロフィール