2026年2月24日
潰瘍性大腸炎(UC)は、寛解と再燃を繰り返す慢性炎症性腸疾患です。症状が落ち着いていても、1年以内に再燃を経験する患者さんは少なくありません。こうした中、国際ランダム化比較試験「ACCURE試験」により、腹腔鏡下虫垂切除術が再燃率を低下させる可能性が示されました。

潰瘍性大腸炎とは?再燃を繰り返す慢性炎症性腸疾患
潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis:UC)は、大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こる病気です。主な症状は、血便、下痢、腹痛、便意切迫感(急にトイレに行きたくなる症状)などで、症状が落ち着く「寛解」と悪化する「再燃」を繰り返すことが特徴です。
炎症は直腸から始まり、連続的に口側(奥)へ広がる傾向があります。軽症であっても再燃を重ねることで炎症範囲が拡大することがあり、長期的には生活の質(QOL)の低下や大腸がんリスクの上昇につながる可能性も指摘されています。
現在の治療は、メサラジン(5-ASA製剤)を基本とし、症状や重症度に応じてステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤へと段階的に強化していきます。しかし、寛解中であっても1年以内に再燃を経験する患者さんは少なくありません。そのため「いかに再燃を防ぐか」が治療の重要な目標となっています。
今回紹介するACCURE試験は、この“再燃予防”という課題に対し、虫垂切除という新たな選択肢を検証した研究です。
ACCURE試験とはどんな研究だったのか
オランダ・アイルランド・英国の22施設で実施された国際共同研究です。対象は、
・潰瘍性大腸炎と診断された方
・現在は寛解中
・ただし過去12か月以内に再燃治療歴あり
という患者さんです。主にメサラジンなどの標準治療を継続している層が対象で、生物学的製剤使用中の患者さんは原則除外されています。
患者さんは無作為に
・腹腔鏡下虫垂切除術+標準治療継続
・標準治療のみ継続
の2群に分けられ、1年間追跡されました。
行われた手術はどんなもの?
本研究で行われたのは、腹腔鏡下虫垂切除術です。
・全身麻酔下で実施
・お腹に小さな孔を数か所あける
・カメラ(腹腔鏡)を用いて虫垂を切除
・一般的な虫垂炎の手術と同様の術式
大腸を切除する手術ではなく、虫垂のみを切除する低侵襲手術です。
潰瘍性大腸炎の再燃率は36% vs 56%
1年以内の再燃率は、
・虫垂切除群:36%
・標準治療のみ:56%
相対リスクは0.65と報告され、統計学的に有意な差が認められました。
計算上は約5人治療すると1人の再燃を防げる可能性があります(NNT≒5)。
さらに、
・初回再燃までの期間が延長
・生物学的製剤の新規導入が少ない傾向
一部の生活の質(QOL)指標で改善
といった結果も示されています。
手術のリスクは?
虫垂切除を受けた96例のうち、
・重篤な合併症:2例(約2%)→内ヘルニアによる開腹術
→腹腔内血腫のドレナージ
・死亡例:なし
・軽度の術後腹痛などは数%
・切除標本の2%に低悪性度虫垂粘液性腫瘍を偶発的に発見(追加治療不要)
周術期合併症は一定数認められましたが、概ね許容範囲と評価されています。ただし、外科手術である以上リスクはゼロではありません。
なぜ虫垂が関係するのか
虫垂には腸管関連リンパ組織(GALT)が豊富に存在し、免疫細胞の活動拠点と考えられています。潰瘍性大腸炎では免疫反応の過剰活性が炎症を持続させるため、虫垂を除去することで炎症維持機構が弱まる可能性が示唆されています。
ただし、本試験は臨床効果を示したものであり、免疫学的メカニズムは今後の研究課題です。
検討対象になりうるのは?
ACCURE試験の対象条件を踏まえると、以下のような患者さんが議論の対象になります。
① 寛解中だが、過去1年以内に再燃している方
現在は症状が落ち着いている
しかし直近12か月以内にステロイドなどで再燃治療を受けている
つまり、「落ち着いてはいるが再燃リスクが高い層」です。
② 主にメサラジン中心の治療で維持している方
生物学的製剤はまだ使用していない
免疫調節薬は一部含まれるが、重症例は対象外
すでに生物学的製剤を使用している方に対する有効性は、本試験では検証されていません。
③ 再燃を繰り返し、生物学的製剤へのステップアップを迷っている方
・再燃・緩解を繰り返す
・できれば高額な生物学的製剤は避けたい
・手術という選択肢を許容できる
虫垂切除は「薬の代わり」ではなく、再燃リスクを下げる補助的介入という位置づけです。
④ 全身麻酔・腹腔鏡手術が医学的に可能な方
・重篤な心肺疾患がない
・大きな腹部手術既往がない
・周術期リスクが高くない
外科的リスク評価は必須です。
まとめ
ACCURE試験は、腹腔鏡下虫垂切除術が潰瘍性大腸炎の寛解維持に寄与する可能性を示した初のランダム化比較試験です。
生物学的製剤に進む前の段階での新たな選択肢として注目されています。
ただし、適応は限定的であり、長期成績はまだ明らかではありません。
治療選択肢の一つとして、主治医と十分に相談した上で検討することが重要です。

監修:豊島区 おなかとおしりのクリニック 東京大塚
院長 端山 軍(MD, PhD Tamuro Hayama)
資格:日本消化器病学会専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本大腸肛門病学会専門医・指導医・評議員
日本外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
がん治療認定医
帝京大学医学部外科学講座非常勤講師
元帝京大学医学部外科学講座准教授
医学博士 など
院長プロフィール