2025年12月10日

黒い便が出る原因は、鉄剤や食べ物による一時的なものから、胃潰瘍・胃がんなど緊急性の高い上部消化管出血まで様々です。便が黒い状態で腹痛やめまいを伴う場合は、タール便(黒色便)による出血の可能性があり、すぐに病院を受診する必要があります。消化器内科専門医が、黒い便の原因となる病気、危険な症状の見分け方、検査・治療方法まで詳しく解説します。
黒い便(便が黒い)とは?タール便との違い
黒い便とは、通常の茶色い便とは異なり、黒色〜黒褐色を呈する便のことです。特に、タールのように黒く光沢があり、粘り気のある「タール便」は、消化管出血の重要なサインとなるため注意が必要です。この章では、黒い便とタール便の違いを整理し、それぞれの特徴をわかりやすく説明します。
黒い便とは
健康な便は、胆汁や腸内細菌の働きによって茶色〜黄褐色を示します。これに対し、黒い便は黒〜黒褐色を呈し、主に次の2つに分類されます。
- 食べ物・鉄剤などによる一時的な黒色化
- 上部消化管出血で生じるタール便(黒色便)
どちらも「黒く見える」点は共通していますが、背景にある理由は大きく異なります。
タールとは?
タールとは、アスファルトのように黒く、光沢があり、粘り気の強い物質です。タール便という名称は、便がこのタールの質感に似ることから付けられています。
タールのイメージ(アスファルトのような黒く光沢のある質感)
タール便(黒色便)の特徴
タール便は、食道・胃・十二指腸など上部消化管からの出血によって生じます。血液中のヘモグロビンが胃酸と反応し、黒色のヘマチンに変化することで、独特の黒さ・光沢・粘性が生まれます。
以下に、通常の黒い便との違いをまとめます。
| 特徴 | タール便(黒色便) | 通常の黒い便 |
|---|---|---|
| 色 | 真っ黒で光沢がある | 黒〜黒褐色、光沢は少ない |
| 性状 | ドロッとして粘性が強い | 通常の便の硬さに近い |
| 臭い | 強い悪臭(出血由来) | 通常の便に近い臭い |
| 持続 | 続くことが多い (出血が一時的なら単発のこともある) |
1〜2日で戻ることが多い |
⚠️ タール便が疑われる場合
タール便は上部消化管出血のサインであり、医学的に重要な所見です。
黒い便の主な原因|心配ないものと危険なもの
黒い便の定義とタール便の違いを理解したところで、次はなぜ便が黒くなるのか、その原因について解説します。原因は大きく3つに分類され、心配のないものから緊急性の高いものまで様々です。
心配ない黒い便の原因(食べ物・薬)
黒い便はまず、食べ物や薬に由来する色の変化が原因となることがよくあります。以下の表に代表的な原因をまとめます。
| カテゴリー | 具体例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 食べ物 | イカスミ、海苔、ひじき、レバー、ブルーベリー、黒ごま、黒色着色料を含む食品 | 1〜2日で元に戻る |
| 鉄剤 | 医療用鉄剤、サプリメントの鉄分 | 服用中は続く |
| その他の薬 | 活性炭、一部の下剤 | 服用中は続く |
これらの食品や薬による黒色化は一時的で、便の硬さや臭いは通常と変わらないのが特徴です。
危険な黒い便の原因(上部消化管出血)
一方、上部消化管(食道・胃・十二指腸)からの出血によって黒い便が出る場合があります。出血した血液が胃酸と反応しヘマチン(黒色)へ変化することで、黒く粘り気のあるタール便になります。
タール便は見た目や臭いが通常の黒い便と大きく異なるため、色や性状に注意が必要です。
原因を見分ける簡易チェック
黒い便の原因を推測する際には、以下の比較表が目安になります。
| チェック項目 | 心配ない場合 | タール便が疑われる場合 |
|---|---|---|
| 食事・薬 | 鉄剤や黒い食品を摂取した | 心当たりがない |
| 見た目 | 黒褐色、光沢少ない | 真っ黒で光沢、粘り気強い |
| 臭い | 通常の便に近い | 強い悪臭がある |
| 持続期間 | 1〜2日で戻る | 続くことが多い |
上記に加えて、腹痛やめまいなどの症状がある場合は、「黒い便が出たときの症状と受診の目安」をご確認ください。
黒い便の原因が食べ物や薬でない場合、上部消化管の病気が隠れている可能性があります。ここでは、黒い便を引き起こす代表的な病気とそれぞれの特徴を解説します。
黒い便で疑われる病気|胃潰瘍・胃がん・食道静脈瘤
上部消化管出血により黒い便(タール便)が出る病気には、胃潰瘍・十二指腸潰瘍(最も頻度が高い)、胃がん、食道静脈瘤破裂などがあります。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃や十二指腸の粘膜に潰瘍(深い傷)ができ、潰瘍部の血管から出血します。黒い便を引き起こす最も頻度の高い病気です。出血した血液が胃酸と反応してヘマチン(黒色物質)に変化することで、黒いタール便となります。
胃がん
胃がんが進行すると、腫瘍からの出血により黒い便が出ることがあります。早期胃がんでは症状がほとんどありませんが、進行すると体重減少や食欲不振を伴います。
食道静脈瘤破裂
肝硬変により食道の静脈が膨れ上がり(静脈瘤)、これが破裂すると大量出血を起こします。生命に関わる緊急事態のため、すぐに救急受診が必要です。
その他の病気
- 急性胃粘膜病変(AGML):強いストレスや大量飲酒、NSAIDs服用で急激に胃粘膜が傷つく
- マロリーワイス症候群:激しい嘔吐により食道と胃の境目が裂ける
→ 詳しくは「お酒を飲んだ後に吐血…マロリーワイス症候群の症状と治療法」をご覧ください
これらの病気でどのような症状が出るか、いつ受診すべきかについては「黒い便が出たときの症状と受診の目安」で詳しく解説します。
黒い便の背景に病気がある場合、同時に現れる症状が重要な判断材料になります。ここでは、 危険な症状・緊急性の高い症状・数日以内の受診が必要なケースを整理します。
黒い便が出たときの症状と受診の目安|すぐ受診すべきケース
黒い便を認めた際は受診が基本となりますが、特に重要なのは 併発する症状と 症状の強さ・持続です。 出血量が多いほど体の反応も強くなるため、危険性の判断に直結します。
すぐに救急受診が必要な症状
以下の症状は出血性ショック・急速な貧血進行を示すことがあり、緊急度が非常に高い状態です。 ためらわず救急外来を受診してください。
| 症状 | 医学的に危険な理由 |
|---|---|
| 急なめまい・立ちくらみ | 急激な貧血が進行し、脳血流が低下しているサイン |
| 冷や汗・動悸・脈が速い | 循環血液量が減少し、出血性ショックへ進行している可能性 |
| 顔面蒼白・意識がもうろう | 臓器への血流不足が進行し、危険な全身状態を示す |
| 激しい腹痛 | 潰瘍穿孔や大量出血など、緊急処置が必要な病態の可能性 |
| 吐血(赤色・コーヒーかす状) | 上部消化管出血が進行しており即時の内視鏡治療が必要 |
数日以内に受診すべき場合
- 黒い便が2日以上続く(原因不明の場合)
- 軽いめまい・疲れやすさが続く(慢性貧血の可能性)
- 胃痛・胸やけ・食欲低下が慢性的にある
- 体重減少がみられる
- 肝臓の病気がある(静脈瘤破裂リスク)
経過観察でよい場合
- 鉄剤を服用している(典型的に黒くなる)
- イカ墨・レバーなど黒い食品の摂取が明確にある
- 他の症状がなく、1〜2日で通常の色に戻る
黒い便の精査には胃カメラが重要です。検査内容については 「黒い便の検査方法|上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)」で解説します。
黒い便が出た際には、原因となる出血がどこで起きているのかを調べるために、いくつかの検査が行われます。 特に胃カメラ(上部消化管内視鏡)は、黒い便の評価において最も重要な検査です。
黒い便の検査方法|上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
黒い便の原因を正確に判断するためには、出血の有無、場所、程度を確認する必要があります。 血液検査と胃カメラは、その中でも特に重要な検査です。
黒い便で行われる基本的な検査
黒い便がみられた場合、まず行われるのが血液検査と 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)です。
| 検査名 | 目的・分かること |
|---|---|
| 血液検査 |
・ヘモグロビン値で貧血の有無を確認 ・炎症反応や出血量の推測に役立つ ・急速な貧血は重度出血のサイン |
| 胃カメラ |
・出血している部位を直接確認できる ・潰瘍・腫瘍・静脈瘤などの病変を観察 ・必要な場合はその場で止血処置が可能 |
胃カメラで分かること
胃カメラでは、食道・胃・十二指腸を直接観察し、 どの部位が、どの程度出血しているかを把握できます。 胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃がん・食道静脈瘤など、黒い便の原因となる病変を正確に診断できます。
出血が確認された場合には、クリップでの止血、薬剤の散布、 高周波による凝固など、内視鏡を用いた止血処置を検査と同時に行えるのが大きなメリットです。
緊急時に行われる検査
めまい・血圧低下・繰り返す黒い便など、 重度の上部消化管出血が疑われる場合は緊急内視鏡が必要になることがあります。 大量出血が疑われる際は、迅速に出血源を特定し、止血処置を行うことが重要です。
激しい腹痛を伴う場合には腹部CTを行い、 穿孔(消化管に穴があく)や多量の腹腔内液体貯留の有無を確認します。 内視鏡とCTを状況に応じて組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。
黒い便の治療は、原因となる病気や出血の有無によって大きく異なります。 特にタール便が見られる場合は、出血を止めるための処置が必要になることがあります。
黒い便の治療方法|薬物療法・内視鏡治療・手術
黒い便の治療は、軽症の潰瘍に対する薬物療法から、持続する出血に対する内視鏡的止血、場合によっては手術まで、状態に応じて選択されます。
軽症の場合の治療|薬物療法
出血を伴わない胃潰瘍・十二指腸潰瘍ではPPI(プロトンポンプ阻害薬)が第一選択です。 胃酸分泌を強力に抑えることで、潰瘍の治癒を促進します。
| 治療 | 目的・内容 |
|---|---|
| PPI(タケキャブ等) | 胃酸を抑えて潰瘍の治りを早める |
| 粘膜保護薬 | 胃粘膜のバリア機能を高め、炎症を抑える |
| ピロリ菌除菌 | 潰瘍再発を防ぐ根本治療として行う |
出血を伴う場合の治療|内視鏡的止血
黒い便(タール便)がある場合、上部消化管出血の可能性が高く、 胃カメラによる内視鏡的止血が最も重要な治療です。
| 止血方法 | 内容 |
|---|---|
| クリップ止血 | 露出血管に金属クリップを留めて出血を止める |
| 薬剤散布 | 止血剤(エピネフリン等)を病変に注入して出血を抑える |
| 熱凝固(焼灼) | 高周波で血管を凝固し止血する |
| 食道静脈瘤治療(EVL/EIS) | ゴムバンド結紮による止血または硬化剤注入 |
重症例の治療|輸血・緊急処置・手術
出血量が多い場合や止血が困難な場合は、輸血や集中管理が必要です。 血圧低下や貧血が進行しているときは、迅速な輸液・輸血で循環動態を安定させます。
内視鏡で止血できない場合や穿孔が疑われる場合には、 外科的手術が必要となることがあります。
黒い便は治療後も再発することがあるため、日常生活での予防や早期対応が重要です。 ここでは、黒い便を防ぐための生活習慣と、実際に黒い便が出た際の対処方法をまとめます。
黒い便の予防と対処法|生活習慣改善・再発防止
黒い便を繰り返さないためには、上部消化管に負担をかけない生活習慣を整えることが重要です。 また、ピロリ菌や薬剤性潰瘍の管理など、医療的な予防も効果的です。
黒い便を予防するための生活習慣
- NSAIDs(痛み止め)の適切な使用:長期使用時は必ず胃薬を併用し、自己判断で多用しない
- 禁煙・節酒:喫煙と過度の飲酒は胃粘膜を損傷し、潰瘍のリスクを高める
- 暴飲暴食を避ける:胃酸分泌が過剰になり、粘膜障害の原因となる
- ストレス管理:過度のストレスは胃粘膜を弱め、潰瘍形成のリスクを上げる
- 十分な睡眠:胃腸の修復を促進し、自律神経のバランスを整える
病気の再発を防ぐ医療的な予防
- ピロリ菌の検査と除菌:胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発予防に最も有効
- 定期的な胃内視鏡検査:特に40歳以上は年1回が目安
- 基礎疾患の管理:肝硬変・慢性胃炎・腎疾患などは早期治療が必要
黒い便が出たときの応急対処
- NSAIDsやサプリメントを中止:薬剤性の粘膜障害を避ける
- 鉄剤を服用中の方へ:鉄剤は便を黒くすることがありますが、自己判断で中止せず、主治医に相談してください。
- 脱水を避けるため水分を確保:出血時は循環が不安定になりやすい
- 市販の胃薬だけで様子を見続けない:黒い便は上部消化管出血のサインであることが多い
- 腹痛・めまいを伴う場合はすぐ受診:症状の進行があり危険な可能性
- 症状が軽くても繰り返す場合は必ず受診:慢性的な出血のリスク
黒い便に関する疑問については「H2-8:黒い便に関するよくある質問(FAQ)」で詳しく解説します。
黒い便に関するよくある質問(FAQ)

監修:東京都豊島区おなかとおしりのクリニック 東京大塚
院長 端山 軍(MD, PhD Tamuro Hayama)
資格:日本消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本大腸肛門病学会指導医・専門医・評議員
日本外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
がん治療認定医
消化器がん外科治療認定医
帝京大学医学部外科学講座非常勤講師
元帝京大学医学部外科学講座准教授
医学博士 など
院長プロフィール
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