「辛い物を食べたあと、トイレでお尻がヒリヒリ…」「唐辛子が好きだけど痛くなるのが怖い」そんなお悩みはありませんか？
実はこの“お尻の痛み”には、医学的に説明できる原因があります。肛門科専門医の立場から、原因と予防法、受診の目安までわかりやすくお話しします。

辛い物を食べるとお尻が痛くなる理由

まずは「なんでこんなに痛いの？」という疑問を解消しましょう。辛い物の成分や消化の仕組みに秘密があります。

カプサイシンによる直接刺激

辛味の主成分である「カプサイシン」は、粘膜を刺激する作用があります。
口や胃だけでなく、腸や肛門の粘膜にも刺激を与え、排便時に痛みやヒリヒリ感を引き起こします。

カプサイシンが痛みを起こす仕組み

唐辛子の辛み成分であるカプサイシンは、感覚神経に存在するTRPV1受容体（Transient Receptor Potential Vanilloid 1）を活性化します。TRPV1は本来、43℃以上の有害な熱刺激を感知する痛みセンサーで、火傷しそうな熱さを「痛い！」と知らせる重要な役割を持ちます。
カプサイシンはこのTRPV1をだまして強制的にオンにし、「熱くて痛い」という信号を脳に送らせます。

参考文献：Caterina MJ et al., The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway Nature 1997

ノーベル賞にもつながったTRPV1の発見

唐辛子の辛さを感知する仕組みは、痛み研究を大きく進め、ノーベル賞受賞につながるほど重要な発見でした。

デイビッド・ジュリアス博士の研究

1997年、アメリカのデイビッド・ジュリアス博士らは、感覚神経の遺伝子ライブラリーを用いたスクリーニングで、カプサイシンを感知するTRPV1受容体を特定し、その仕組みを解明しました。

この研究は、痛みを感じる仕組みそのものを分子レベルで解明する大きな一歩となりました。

2021年ノーベル生理学・医学賞受賞

ジュリアス博士はこの功績により2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞。TRPV1の発見は、痛みの理解を深めただけでなく、痛み治療薬の開発にもつながりました。
実際、カプサイシンを高濃度で含む外用パッチは、帯状疱疹後神経痛など特定の慢性痛の治療に使われています。

腸管にも分布するTRPV1受容体

TRPV1は皮膚だけでなく、腸の神経にも広く分布しています。辛い物を食べた後のお腹の不調や便通の変化も、この受容体が深く関わっています。

腸の神経ネットワークとTRPV1

TRPV1は皮膚だけでなく、腸管内の感覚神経終末にも豊富に発現しています。腸は内部環境をモニターし、痛み、炎症、機械的刺激、酸、熱など多様な刺激を感知するための神経ネットワークを備えています。
カプサイシンが腸に到達すると、腸管神経内のTRPV1を活性化し、**「腸の痛み」や「お腹のゴロゴロ感」**を引き起こします。

参考文献：Holzer P. TRPV1: a new target for treatment of visceral pain in IBS?: Gut. 2008 Jul;57(7):882–884.

腸の運動を促進する作用も

辛みの成分であるカプサイシン（詳細は後半に記述）はTPRV1を経由して腸管神経を刺激し、蠕動運動を活発にすることも知られています。そのため「辛い物を食べるとお腹がゆるくなる」「トイレが近くなる」といった下痢症状を経験をする人も多いのです。

どんな人が肛門（おしり）が痛くなりやすい？

「自分だけこんなに痛いの？」と思う人も多いですが、実は体質や生活習慣が影響します。

便秘や痔がある人

便秘で肛門に負担がかかっていると、軽い傷や炎症が起こりやすく、そこに辛味成分がしみて痛みが増します。

下痢をしやすい人

腸が敏感で下痢気味だと、カプサイシンが分解されずに排出され、肛門をダイレクトに刺激します。

刺激物をよく食べる習慣がある人

日常的に唐辛子やスパイスを多用する人は、肛門周辺が慢性的に刺激を受けやすい傾向があります。。

辛い物を食べてから症状が出るまでの時間

「辛い物を食べたけど、いつ症状が出るの？」多くの方が気になるタイミングについて解説します。

唐辛子とカプサイシンの関係

唐辛子の“辛さ”の正体はカプサイシンという成分。どんな料理に入っているのか、どれくらい含まれているのかを知っておくと、上手な摂取につながります。

辛さの正体はカプサイシン

唐辛子の辛みはほぼすべてカプサイシンによるものです。特に果実の胎座部分（種の周囲）に多く含まれています。
唐辛子の品種によってカプサイシン含量は大きく異なり、ハバネロ、ブート・ジョロキア、キャロライナ・リーパーなどは非常に高濃度です。

唐辛子の品種によってカプサイシン含量（辛さの強さ）は大きく異なります。これは**スコヴィル値（SHU, Scoville Heat Units）**という単位で測定され、数値が大きいほど辛味成分カプサイシンの濃度が高いことを示します。

・一般的な鷹の爪（タカノツメ）：
30,000–50,000 SHU

・ハバネロ：200,000–350,000 SHU

・ブート・ジョロキア（ゴーストペッパー）：
約1,000,000 SHU

・キャロライナ・リーパー：
1,500,000–2,200,000 SHU

・タバスコソース：2,500–5,000 SHU（比較用）

つまりキャロライナ・リーパーはタカノツメの約40倍以上の辛さを持ち、少量でも強烈な刺激を与えるため、調理や摂取時には特に注意が必要です。

5-2．唐辛子は粉末やソースなど形を変えてもカプサイシンは失われない

唐辛子粉、一味、七味、ホットソース、辣油など、形を変えてもカプサイシンは失われず、同様の刺激を与えます。これらを日常的に摂取することで、知らずに多量のカプサイシンを摂ることもあります。

辛い物による下痢とおしりの痛みの関係

「下痢になると、おしりがさらに痛くなる」と感じたことはありませんか？実は医学的な理由があります。

辛い物を食べた後のお尻の痛みをやわらげる対処法

「おしりが痛くなっちゃった…」「おしりがヒリヒリする…」そんなときに試せるセルフケア（対処法）を紹介します。

排便後は優しく肛門（おしり）を洗う

トイレットペーパーでゴシゴシ拭くとさらに刺激を与えます。シャワーや温水洗浄便座を弱めに使い、やさしく洗いましょう。

肛門周囲の皮膚の保湿を心がける

肛門周辺の皮膚を保護する市販の保湿クリームを使うのもおすすめ。乾燥やひび割れを防ぎます。

下痢でおしりの穴が痛い時の対処法

カプサイシンを取りすぎると痛みは和らぐ？

実はカプサイシンを大量に摂ると、痛みを感じにくくなる現象も知られています。

神経の“疲弊”による脱感作

カプサイシンはTRPV1受容体を強力に刺激することで、最初は強い痛みを起こしますが、繰り返し高濃度で刺激し続けると神経終末が“疲弊”し、一時的に感度が鈍くなる**「脱感作（desensitization）」という現象が起こります。
この結果、同じ刺激でも痛みを感じにくくなることがあり、医療ではこの作用を利用して高濃度カプサイシンパッチ**を神経性疼痛の治療に使います。

ただし、食事レベルでこの「脱感作」が十分に起こるには相当量のカプサイシンが必要です。現実には、「最初は痛くてヒリヒリするが、慣れてくる」「しばらくすると感覚が鈍る」程度が多いです。

さらに、取りすぎは胃腸障害や下痢、肛門痛など別の問題を引き起こすため注意が必要です。

肛門科を受診したほうがいい場合

「ただの刺激だから大丈夫」と思いがちですが、次のような症状があるときは医療機関の受診をおすすめします。

おしりから出血(下血）を繰り返す

おしりから鮮血が何度も続く場合は痔や裂肛だけでなく、他の病気が隠れている可能性もあります。

日本大腸肛門病学会：血便、便秘、下痢のあるときどんな病気が考えられるの？どんな検査をするの？　大腸カプセル内視鏡ってどんな検査？

おしりの痛みが強くて座れない

おしりの激しい痛みや腫れは、痔核や肛門周囲膿瘍などのサインかもしれません。

医療コラム：突然おしり（肛門）が痛い！考えられる原因と受診の目安　もご参照ください。

下痢や便秘が続く

小腸や大腸の病気が原因で下痢や便秘を繰り返している場合、専門的な検査(大腸カメラ検査）が必要になることもあります。

おなかとおしりのクリニック 東京大塚の肛門診療の特徴

「恥ずかしいから相談しにくい」「でも痛みをなんとかしたい」という方へ。当院では患者さんが安心して相談できる体制を整えています。

肛門科専門医による診察

大腸肛門病専門医が診療を担当し、痛みの原因をしっかりと診断します。

鎮静剤を使用した無痛大腸内視鏡検査

無痛大腸内視鏡検査では、鎮静を用いてうとうとした状態で検査を行います。大腸がんや炎症性腸疾患などの病気をしっかり調べます。

女性も安心の環境

女性医師による診療日もあり、女性専用の更衣室・トイレを完備。デリケートなお悩みも安心してご相談ください。

🔍 FAQ｜辛い食べ物とお尻の痛みの関係について

Q1. 辛いものを食べると、なぜお尻がヒリヒリするの？
A.
辛味成分のカプサイシンは、口だけでなく消化管や肛門付近の皮膚・粘膜にも刺激を与える成分です。
特に肛門の皮膚（歯状線より外側）にはTRPV1という“痛みのセンサー”が存在しており、ここにカプサイシンが作用することで「ヒリヒリ」「焼けるような痛み」が起こります。
これは熱いものを触ったときと似たしくみで、体の防御反応でもあります。

Q2. 辛み成分であるカプサイシンは体に悪いのですか？
A.
適量のカプサイシンは代謝促進や血流改善、食欲増進に効果がありますが、大量摂取や刺激に弱い方では腹痛・下痢・肛門痛などのトラブルの原因になることがあります。
胃腸が弱っている時、または痔や裂肛がある方は特に注意が必要です。

Q3. 辛い物を食べ続けると刺激に慣れるって本当？
A.
はい、ある程度は本当です。カプサイシンの刺激を繰り返し受けると、TRPV1が一時的に反応しにくくなる「脱感作（desensitization）」という現象が起こります。
この仕組みは医療現場でも高濃度カプサイシン製剤を神経痛の治療に応用しています。

Q4. 辛いものを食べた翌日、お尻が痛くならないような対処法はありますか？
A.
以下のような対策が有効です：
辛い物を食べるときは**脂肪分を含む食品（ヨーグルト、牛乳）**を一緒に摂るとカプサイシンの吸収を緩和できます。
食後の水分補給をしっかりと行い、排便をスムーズに保つことも重要です。
排便時にウォシュレットを使用しすぎないようにし、肛門の皮膚バリアを保護しましょう。

Q5. TRPV1は腸の中にもあるの？
A.
はい。TRPV1は腸内の神経や粘膜にも発現しており、腸の痛みや炎症、運動調節にも関わっています。
IBS（過敏性腸症候群）や炎症性腸疾患の研究でも、TRPV1の関与が報告されています。
また、カプサイシンの経口摂取が腸のTRPV1を介して腸管の感受性を高める可能性も示唆されています。

Q6. 肛門（お尻の皮膚）と直腸は構造が違うの？
A.
はい。肛門の内側には「歯状線」という解剖学的な境界があり、これを境に内側（直腸側）は粘膜、外側（肛門の皮膚側）は皮膚（表皮）になります。
皮膚側には痛みや熱を感知するTRPV1などのセンサーが豊富であるため、カプサイシンの刺激でお尻が痛くなるのです。

Q7. 「辛い＝痛い」はどうして同じように感じるの？
A.
これは**「辛さ（hot）」と「熱さ（hot）」が、同じTRPV1受容体を介して感じ取られるから**です。
この発見により、TRPV1が「辛味」「熱」「痛み」の共通センサーであることが明らかになり、2021年にはジュリアス博士がノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

Q8. 辛い物を食べてから下痢になるまで何時間かかりますか
A.
一般的には食後2〜6時間で下痢の症状が現れることが多いです。カプサイシンが腸の蠕動運動を活発にし、消化が早まるためです。ただし、個人差があり、食事の内容や体調によっても変わります。

Q9. 辛い物を食べてから腹痛が起こるまで何時間ですか？
A.
腹痛は食後30分〜2時間程度で現れることが多いです。これはカプサイシンが胃や小腸の粘膜を直接刺激するためです。空腹時に食べるとより早く症状が出やすくなります。

Q10. 下痢の時におしりの穴が痛い場合、どう対処すればいいですか？
A.
以下の対処法が有効です：
①ウェットティッシュで優しく拭く
②ぬるま湯で座浴
③市販の痔の薬を使用
④水分補給をしっかり行う
症状が続く場合は肛門科を受診してください。

まとめ

「辛い物を食べた後のお尻の痛み」は、多くの人が経験する身近なトラブルですが、原因を知り対策をすることで軽減できます。

無理をして我慢せず、症状が強い場合は専門医に相談を。
豊島区「おなかとおしりのクリニック 東京大塚」では、患者さん一人ひとりのお悩みに寄り添い、専門的な診療を行っています。お気軽にご相談ください。JR大塚駅徒歩１分（巣鴨、池袋、板橋、文京区）とアクセス良好です。