
血便/下血(腸管内から出血しているサイン)
血便/下血(腸管内から出血しているサイン)
「トイレで見た血の色にびっくりしてしまった」「便器の中が赤く染まっていた」——血便や下血の経験がある方の中には、そうした不安を抱えながらも、「でも痛みはないし、少し様子を見よう」と放置してしまう方が少なくありません。
特に女性の場合、「痔かな?」「生理の影響かも?」と自己判断して受診を後回しにしてしまうケースも多いようです。
しかし、血便や下血というのは、私たちの体から送られている“異常のサイン”です。体のどこか、たとえば胃や十二指腸、大腸などの消化管で出血が起こっている可能性があり、その原因によっては早期の治療が必要になる事もあります。
このコラムでは、血便・下血の原因とその見分け方、女性ならではの注意点、そして最も大切な「検査の必要性」について、わかりやすくご説明します。
まず、「血便」と「下血」の違いについてお話ししましょう。
血便とは、便に血液が混じっている状態を指します。血の色や量はさまざまで、赤い鮮血が付いていたり、黒っぽい便が出たりします。
一方、下血(げけつ)は、胃や小腸などの上部消化管からの出血が腸を通って排出される状態を指し、多くは黒色便(タール便)として現れます。ポイントは、どこで出血が起きているかによって、見た目や色が変わるという事です。
肛門に近い部位(大腸の末端や直腸、肛門)からの出血が多いです。
大腸の奥のほうや、より上部(たとえば胃や十二指腸)からの出血の可能性があります。
消化液と混ざった血が腸内を移動しながら分解された状態で、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などが疑われます。
つまり、血便や下血が見られるとき、それはただの痔だけではなく、胃・大腸・十二指腸などの病変が隠れている可能性があるという事なのです。
血便や下血の原因として、以下のような疾患が挙げられます。
もっともよく見られる原因のひとつで、排便時の出血が主です。便の表面に赤い血が付着する事が多く、痛みを伴う事もあります。
良性の事が多いですが、一部は将来的にがん化する可能性があります。出血していても自覚症状がない場合が多く、定期的な検査が重要です。
血便・下血の原因として見逃してはいけないのが大腸がんです。特に、便に混じった血や、慢性的な便秘・下痢の変化がある場合は要注意です。
上部消化管からの出血は黒いタール便として現れる事が多いです。吐き気や胃の痛みが伴う場合もあります。
急に腹痛とともに血便が出る場合、腸炎が原因となっている事もあります。高齢者やストレスの多い方に多くみられます。
「女性は大腸がんのリスクが低いから心配いらない」と思っていませんか? これは大きな誤解です。たしかに、男性のほうがやや発症率が高い傾向にあるという統計もありますが、女性も40代を過ぎると大腸がんのリスクは確実に上がっていきます。
さらに、女性は便秘やストレス、ホルモンバランスの影響で腸内環境が乱れやすく、腸疾患に気づきにくいという背景もあります。「いつもの便秘かな」「痔だろう」と自己判断せず、しっかり調べる事が何より大切です。
また、生理による出血と混同してしまい、本当の出血源に気づかないケースもあります。「トイレで血を見たけど、時期的に生理だと思った」という方も、見過ごさないようにしましょう。
血の色や量だけで「これは大丈夫」「これは危ない」と判断するのは非常に難しいです。また、出血が一度だけで止まってしまった場合でも、根本的な原因が残っていれば、時間をおいてまた再発する事もあります。
そこで、医師として一番おすすめしたいのが内視鏡検査です。
内視鏡検査には、大きく分けて「胃カメラ(上部内視鏡)」と「大腸カメラ(下部内視鏡)」があります。
食道、胃、十二指腸を観察でき、潰瘍やポリープ、胃がんの早期発見につながります。
大腸全体と直腸を調べられ、ポリープや炎症、がんの発見に有効です。
これらの検査は、痛みや不快感が心配されがちですが、最近では鎮静剤を使った検査方法も一般的になっており、ほとんど苦痛なく受ける事ができます。何より、原因が明確になる事で、必要以上に不安になる事がなくなりますし、病気の早期発見・早期治療にもつながります。
血便や下血は、「どこかに異常がありますよ」という体からの大切なサインです。もちろん、痔のように心配のいらないケースもありますが、胃・十二指腸・大腸の病気が隠れている可能性を見逃すわけにはいきません。
「きっと大丈夫」「また今度でいいや」ではなく、少しでも不安を感じたら、ぜひ医師に相談してください。そして、必要に応じて内視鏡検査を受けてみましょう。
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