2025年7月13日
「川遊びをした後に子どもが急に下痢をした」「家族みんなが嘔吐しはじめた」
そんな経験はありませんか?
夏のアウトドアで大人気の川遊びですが、「自然の水=安全」ではありません。川や湖などの淡水には、目に見えないさまざまな病原体が潜んでおり、感染症を引き起こすリスクがあります。
この記事では、川遊び後に起こる嘔吐・下痢の原因、主な病原体、症状、予防法、そして受診の目安まで、消化器専門医の視点で詳しく解説します。
川の水は本当に安全?汚染リスクを知ろう
川や湖は一見きれいに見えますが、実は多くの病原体が潜むことがあります。
自然の水は常に安全とは限らないため、リスクを理解しておくことが大切です。
川の水が汚染される理由
・遊んでいる場所より上流からの生活排水や家畜のフン
・野生動物の排泄物
・大雨後の排水や堆積物の巻き上がり
これらが原因で細菌やウイルス、寄生虫が川に流入します。
特に雨の後は汚染リスクが急増することが知られています。
川遊び中の人への感染経路をチェック
川遊びはとても楽しいレジャーですが、無意識のうちに病原体を体内に取り込むことがあります。
感染経路を知って、正しく対策しましょう。
主な感染経路
・誤って水を飲み込む
・水しぶきが口や目に入る
・皮膚の傷口から病原体が侵入
小さな子どもは水を飲み込みやすいため、大人以上に感染リスクが高いとされています。
川遊び後に起こる主な水系感染症
川遊び後の下痢や嘔吐の主な原因は「水系感染症」です。
ここでは、感染の原因となる代表的な病原体とその症状を紹介します。
①原虫感染症
見た目がきれいな水でも、原虫が潜んでいることがあります。
原虫とは
「原虫(げんちゅう)」は、とても小さな1つの細胞からできている生き物です。
中学校や高校の理科で習うゾウリムシやアメーバも、この原虫の仲間です。
ただし、すべての原虫が安全なわけではありません。
中には人や動物に寄生して、下痢や発熱などの病気を起こす種類もあります。また、原虫はとても複雑な仕組みを持っていて、人間の免疫から身を隠すのが得意です。
そのため、ワクチンや薬で完全に予防・治療するのが難しいものもあります。そのため、予防法や治療薬の開発がとても重要だとされています。

国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
IASR 35(8), 2014【特集】クリプトスポリジウム症およびジアルジア症 2014年7月現在
✅ クリプトスポリジウム
・塩素消毒にも強く、生き残る
・水様性下痢が長引く
・子どもや免疫力が低下した人は重症化しやすい
✅ ジアルジア
・腹痛、下痢、吐き気、膨満感
・感染力が非常に強い
・日本国内でも井戸水利用やアウトドアでの感染報告例あり
②細菌感染症
✅ 腸管出血性大腸菌(O157など)
激しい腹痛、血便
少量でも感染
日本でも川遊び後のO157集団感染例あり
✅ カンピロバクター
下痢、腹痛、発熱、嘔吐
野生動物や家畜の排泄物汚染水が原因
毎年国内で数千件以上報告
✅ サルモネラ
下痢、発熱、腹痛
鳥や爬虫類などから水域汚染
③ウイルス感染症
非常に少量でも感染するウイルスにも注意。
✅ ノロウイルス
激しい嘔吐、下痢、腹痛、倦怠感
冬のイメージだが、下水由来で夏も河川を汚染
集団感染例も報告あり
微生物 | 細胞形態 | 大きさ | ゲノムサイズ | 遺伝子数 | 予防・治療法 |
---|---|---|---|---|---|
原虫 | 非細胞性粒子 | 20-300nm | ~0.2Mb(106塩基): 一本~数分節のゲノム | ~数十個 | ワクチン |
細菌 | 原核細胞 | 0.5-10μm | 1~10Mb: 一本のゲノム | 1,000~2,000 | ワクチン・抗生物質 |
ウイルス | 真核細胞 | 1-20μm | 10~50Mb: 複数本(~20)の染色体 | 1,000~10,000 | ワクチン(ほとんど研究段階) |
日本国内の報告例とデータ
実際に日本でも、川遊びやアウトドア後の水系感染症が報告されています。
具体的な事例やデータを知ることで、リスクを実感しましょう。
保健所報告の事例
・天草 滝周辺で水遊びのあと体調不良に ノロウイルスが原因か
詳細記事はこちら
・蛇口の水からのジアルジア集団感染
国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト ジアルジアによる集団感染事例について
・バーベキューの鶏肉によるカンピロバクター食中毒
参考文献:日本食品微物学会雑誌Jpn. J. Food Microbiol., 20 (2), 83-86, 2003
川遊びを安全に楽しむための予防法
川遊びを安全に楽しむには、正しい知識と予防策が大切です。
具体的な予防ポイント
・川の水を絶対に飲まない
・口や目に水しぶきが入らないよう注意
・目をこすらない
・皮膚の傷口は防水処置
・遊んだ後はすぐシャワーを浴びる
・大雨後は川遊びを控える
・小さなお子さんは大人がしっかり見守り、水を飲み込まないようにしましょう。
まとめ:正しい知識で安全に川遊びを
川遊びは夏の思い出作りにぴったりですが、感染症リスクを知っておくことが大切です。
・川遊び後の下痢・嘔吐は水系感染症の可能性
・クリプトスポリジウム、ジアルジア、O157、カンピロバクター、ノロウイルスなど多様な病原体
・日本でも保健所が感染事例を報告
・「水を飲まない」「帰宅後のシャワー」「大雨後は避ける」など予防を心がけましょう
・異変があれば早めに医療機関を受診
当院では、夏の感染性胃腸炎や急性下痢症の診察も行っています。気になる症状があればお気軽にご相談ください。

監修:おなかとおしりのクリニック 東京大塚
院長 端山 軍(MD, PhD Tamuro Hayama)
資格:日本消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本大腸肛門病学会指導医・専門医・評議員
日本外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
帝京大学医学部外科学講座非常勤講師
元帝京大学医学部外科学講座准教授
医学博士