2025年7月08日

夏は高温多湿で細菌の増殖が活発になり、食中毒のリスクが高まる季節です。特に屋外でのバーベキュー、調理後の食品の常温放置など、日常生活の中に危険が潜んでいます。本稿では、夏に多い食中毒の原因、予防法、そして正しい対処法について消化器内科専門医がランキング形式で解説します。
日本における月別食中毒の発生状況です。夏では、8月に多くなる傾向にあります。

食中毒とは
食中毒は、有害な微生物(細菌、ウイルス、寄生虫など)や化学物質を含む食品を摂取することで起こる健康被害です。主な症状は嘔吐、下痢、腹痛、発熱などです。

夏に多い主な食中毒の原因菌とは?
夏になると細菌性食中毒の件数が増えます。
夏に多い細菌種別食中毒の件数推移とランキング
6月 | 7月 | 8月 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
ウエルシュ菌 | 224 | 129 | 94 | 447 |
カンピロバクター | 105 | 173 | 78 | 356 |
ブドウ球菌 | 0 | 176 | 155 | 331 |
サルモネラ属菌 | 30 | 32 | 55 | 117 |
腸管出血性大腸菌 | 17 | 17 | 55 | 89 |

夏に多い食中毒原因菌ランキング別解説
暑い季節は、食中毒のリスクが特に高まります。細菌の増殖が活発になり、調理や保存のちょっとした油断が大規模な食中毒を引き起こすことも。
ここでは、夏場に特に多い原因菌をランキング形式で解説し、それぞれの特徴、感染源、症状などをまとめました。
予防のポイントもぜひ参考にして、家族や自分の健康を守りましょう。豊島区 おなかとおしりのクリニック 東京大塚も応援します。
①ウエルシュ菌
◉特徴
学名:Clostridium perfringens
・グラム陽性桿菌
・芽胞形成菌・・・厳しい環境下でも芽胞で生存
・嫌気性菌・・・酸素がない環境で増殖
◉ 病原性
腸管内で芽胞から発芽 → 増殖
**エンテロトキシン(CPE)**産生 → 下痢、腹痛を引き起こす
◉ 主な感染源
大量調理後に常温放置された食品
カレー、シチュー、煮物、肉料理
芽胞は加熱調理後も生き残る
ゆっくり冷却→室温で増殖
◉潜伏期間
6〜18時間(典型は10〜12時間)
サルモネラやカンピロバクターより短い
◉ 臨床症状
腹痛(痙攣性で強いことも)
水様性下痢
嘔吐は少ない
発熱はほとんどなし
1〜2日で自然軽快することが多い
②カンピロバクター
◉特徴
・グラム陰性のらせん状桿菌
・主な種(学名):Campylobacter jejuni、C. coli
・37〜42°Cで増殖(鳥の腸管内に適した温度)
・低酸素(微好気)条件で増殖
◉病原性
・極めて少量(数百個程度)の菌で発症
・腸管上皮に接着、侵入、炎症を誘導
・腸管の粘膜損傷・炎症
◉主な感染源
・鶏肉(加熱不十分、生食)
・日本では特に「鶏刺し」「たたき」での報告が多い
・汚染水
・生乳
・交差汚染(生肉を切った包丁やまな板で野菜を調理 など)
◉潜伏期間
・平均 2〜5日(1〜7日程度)
◉臨床症状
・初期:発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛
・その後、腹痛、下痢(水様〜血便)、嘔吐
・腹痛はしばしば「しつこい、鋭い、右下腹部痛(虫垂炎様)」と表現される
・多くは軽快するが、脱水に注意
◉診断
・便培養(微好気培養が必要)
・PCR(保健所や研究室レベルで利用例あり)
・臨床的には、流行状況や食事歴、潜伏期間で診断的推定をすることも多い
③ブドウ球菌
◉特徴
・学名:Staphylococcus aureus
・グラム陽性球菌
・通性嫌気性、耐塩性(10%食塩でも増殖可能)
・皮膚や粘膜に常在(鼻腔、手指など)
◉ 病原性
・エンテロトキシン(耐熱性毒素)を食品中で産生
・加熱調理しても毒素は失活しにくい
・食品中で増殖 → 毒素蓄積 → 摂取で食中毒
◉ 主な感染源
・調理従事者の手指の傷や化膿巣
・鼻腔内の保菌
・汚染された調理器具
・食品(おにぎり、弁当、サンドイッチ、菓子パン、クリーム系)
◉潜伏期間
・1〜6時間(平均2〜3時間)
・食中毒原因菌の中で非常に短い
◉臨床症状
・急激な発症
・激しい吐き気・嘔吐
・腹痛
・下痢(軽度のことが多い)
・発熱は軽度またはなし
・多くは12〜24時間で自然軽快
④サルモネラ属菌
◉特徴
・グラム陰性桿菌
・非定型性運動性を持つ(鞭毛あり)
・サルモネラは**2000種類以上の型(血清型)**がある→どの型かを調べると感染源や流行を追跡できる
ヒト病原型は主に
・非チフス性サルモネラ(NTS)
・チフス・パラチフス型
ここでは**非チフス性サルモネラ(NTS)**の食中毒を中心に説明。
◉病原性
・高用量の経口感染が必要(10⁵〜10⁶個程度が目安)
・腸管M細胞経由で侵入
・マクロファージ内で増殖
・腸管粘膜での炎症反応 → 下痢
◉ 主な感染源
・生卵・加熱不十分な卵料理
・鶏肉、豚肉
・未殺菌乳製品
・ペット(カメ、爬虫類)
・交差汚染(包丁、まな板など)
◉潜伏期間
6〜72時間(通常12〜36時間)
カンピロバクターより短い
◉臨床症状
悪心、嘔吐
腹痛(しばしば痙攣性、びまん性)
下痢(水様便、時に血便)
発熱(38〜39℃程度)
大多数は軽症〜中等症で自然軽快する。
食中毒予防のポイント
家庭でできる食中毒の予防ポイントです。(厚生労働省発行)

・中心部までしっかり加熱(75℃以上1分以上が目安)
・調理器具の洗浄・消毒を徹底
・手洗いを励行(特に調理前後、トイレ後)
・生肉や魚を切った包丁・まな板は他の食材と共有しない
・調理後の食品は速やかに冷蔵保存
参考資料:厚生労働省「家庭での食中毒予防」
食中毒の対処法
・脱水予防が重要(経口補水液など)
・嘔吐・下痢止めの自己判断使用は避ける
(病原体の排出を阻害する場合がある)
・重症化のサイン(血便、高熱、意識障害、尿減少など)があれば早めに医療機関受診へ
まとめ
夏に特に注意すべき食中毒原因菌ランキング(発生件数ベース傾向)
1️⃣ ウェルシュ菌
2️⃣ カンピロバクター
3️⃣ ブドウ球菌
4️⃣ サルモネラ属菌
5️⃣ 腸管出血性大腸菌
詳細につきましては厚生労働省【食中毒】をご参照ください。


監修:おなかとおしりのクリニック 東京大塚
院長 端山 軍(MD, PhD Tamuro Hayama)
資格:日本消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本大腸肛門病学会指導医・専門医・評議員
日本外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
帝京大学医学部外科学講座非常勤講師
元帝京大学医学部外科学講座准教授
医学博士
院長プロフィール