2025年7月21日

「通勤電車に乗るとお腹がゴロゴロして不安になる…」「通学中に腹痛で途中下車…」「外出中の電車移動が怖い」
そんな経験、ありませんか?
実はこのような症状には、過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)と呼ばれる腸の機能性疾患が関係していることがあります。
本コラムでは、電車での下痢の原因や仕組み、対策、そして医療機関での対応までを、専門的かつやさしく解説します。
通勤・通学・外出時に突然の腹痛や下痢…思い当たることはありませんか?
「朝の電車で急にお腹が痛くなり、途中下車したことがある」
「通学中、毎日トイレが気になって落ち着かない」
「外出先でも常にトイレの位置をチェックしてしまう」
――そんな悩みを抱えている方は、少なくありません。
これらの症状は、ストレスや不安が腸に影響を与える「過敏性腸症候群(IBS)」が関係していることがあります。

ストレスが腸に影響する?――自律神経と腸の関係
なぜ「電車に乗るとお腹が痛くなる」のか。そこには、心と体をつなぐ神経の仕組みが関わっています。
自律神経の乱れが腸を過敏にする
満員電車や時間に追われる移動中、人は強い緊張を感じます。
このストレスが「自律神経」のバランスを乱し、腸の動きを活発にしすぎてしまうことで、下痢や腹痛が起こりやすくなります。
自律神経とは?
呼吸・消化・血流などを無意識に調整する神経です。ストレスがかかると「交感神経」が優位になり、腸が過敏になって腹痛や下痢を引き起こすことがあります。
「電車=お腹が痛くなる」の条件反射
一度でも電車内で腹痛に苦しんだ経験があると、「またあの症状が出たらどうしよう」と不安が強まり、次回も同じ症状を引き起こしてしまうことがあります。
これを条件づけと呼び、心理的ストレスが引き金になって腸の反応が繰り返されるのです。
電車に乗るたびに腹痛や下痢が起きる…それ、過敏性腸症候群かもしれません
「たまたま調子が悪いだけ」と放置していませんか?
何度も繰り返す場合は、病気としての対応が必要です。
過敏性腸症候群(IBS)とは?
IBSは、腸に明らかな異常(潰瘍や炎症など)がないにもかかわらず、慢性的な腹痛や便通異常(下痢・便秘)が続く疾患です。
特に朝の通勤・通学前や外出前など、ストレスのかかる場面で悪化しやすいのが特徴です。
・検査では異常が見つからないため、「気のせい」と片づけられてしまうこともありますが、れっきとした医学的な疾患です。
・特に朝の通勤・通学時、外出前など「プレッシャーがかかる状況」で悪化しやすいのが特徴です。
脳腸相関(のうちょうそうかん)とは?
脳と腸は神経やホルモンを通じて密接につながっており、心の状態が腸の働きに影響を与える関係を「脳腸相関」といいます。IBSではこのバランスが崩れていることが多く、治療の鍵となります。
厚生労働省 eJIM過敏性腸症候群
電車に乗るとお腹(腹痛・下痢)が不安…日常でできる対策と習慣
毎朝の移動が不安で仕方ない――そんな方でも、日常生活を少し工夫することで症状を軽減できることがあります。
1. トイレの場所を事前に確認しておく
「トイレが近くにある」と分かっているだけで、心理的安心感が得られます。駅構内のトイレ位置や途中下車できる駅をあらかじめ確認しましょう。
2. 通勤・通学ルートを工夫する
混雑が少ない時間帯にずらす、各駅停車を利用する、始発駅から乗るなど、ストレスを減らす工夫を取り入れましょう。
3. 食事の見直し(低FODMAP食)
FODMAP(フォドマップ)とは、腸で発酵しやすい糖質群(発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール)の総称です。
「FODMAP(フォドマップ)」とは、発酵性の糖質群のこと。以下のような成分が該当します:
Fermentable(発酵性)
Oligosaccharides(オリゴ糖:例:フルクタン、ガラクトオリゴ糖)
Disaccharides(二糖類:例:乳糖)
Monosaccharides(単糖類:例:果糖)
And
Polyols(ポリオール類:例:ソルビトール、マンニトール)
低FODMAP食とは?
小麦製品、玉ねぎ、乳製品、豆類、果糖などを控える食事療法で、IBSの症状緩和に有効とされています。医師や管理栄養士と相談しながら実施するのが安全です。

4.ストレス対策・心のケア
IBSでは、「また症状が出たらどうしよう」という不安や緊張が、実際に腹痛や下痢を引き起こす“引き金”になることがあります。
ストレスとうまく付き合うことは、IBSの根本的な改善につながる大切なポイントです。

認知行動療法(CBT):思考・行動・感情の悪循環を断ち切る
①CBT(Cognitive Behavioral Therapy)は、IBSにおける心理的ストレスや不安をやわらげるための代表的な心理療法です。
項目 | 内容の例 |
---|---|
認知(考え) | 「また電車でお腹が痛くなったらどうしよう」などの自動思考 |
感情 | 不安、緊張、焦り |
身体反応 | 腹痛、下痢、動悸、冷や汗 |
行動 | 電車を避ける、トイレの場所を過剰に気にする |
CBTではこの悪循環を、
・自分の思考パターンに気づく
・現実的で前向きな見方に書き換える
・小さな行動を試して「大丈夫だった」という経験を積む
という形で丁寧に整理していきます。
🔍【例】
「また電車でお腹が痛くなるかも」→「今日は途中下車できる駅もあるし大丈夫かもしれない」
→「実際に大丈夫だった」→「電車に乗る不安が少し減った」
という風に、不安の“思い込み”を少しずつ上書きしていくのがCBTの基本的な仕組みです。
認知行動療法センター 認知行動療法(CBT)とは
②マインドフルネス:今この瞬間に意識を向けて、不安を手放す
マインドフルネスは、“いまここ”の体の感覚や呼吸に意識を向けることで、未来への不安や過去の後悔から距離を置くためのトレーニングです。
IBSの方の多くは、「また症状が出たらどうしよう」と**“まだ起きていないこと”に強くとらわれている**ことがあり、それが腸を過敏にさせます。
マインドフルネスを取り入れることで、そうした思考や感情に巻き込まれにくくなり、脳腸相関が安定しやすくなるとされています。
🧘【簡単な実践例】マインドフルネス呼吸法(1分間)
① 姿勢を正して座る
② 鼻からゆっくり息を吸い、「吸っている」と気づく
③ 口からゆっくり息を吐き、「吐いている」と気づく
④ 浮かんでくる思考は否定せず、「考えが浮かんだな」と流す
症状がつらいときは専門医へ相談を
「またあの症状が起きたらどうしよう」という不安は、体だけでなく心にも大きな負担です。
我慢せず、専門の医師に相談しましょう。
豊島区「おなかとおしりのクリニック 東京大塚」では、IBSをはじめとした腸の不調に対し、専門医による診察とAI搭載内視鏡システムによる大腸カメラ検査を行っております。
生活指導、食事アドバイス、薬物療法まで一人ひとりに合わせた治療をご提案いたします。
女性医師の診察日(火曜日)や、女性専用更衣室の完備など、プライバシーと安心にも配慮しています。
通勤・通学・外出時の不安を抱える方も、安心してご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 電車以外では症状が出ません。IBSでしょうか?
→ はい、IBSは「特定の状況でだけ出る」パターンが多くあります。心理的ストレスが関与しているケースが多いです。
Q. 検査で異常がないのに薬が処方されるのでしょうか?
→ 器質的疾患(潰瘍や炎症)がないことがIBSの前提ですが、症状を和らげる薬物療法は非常に有効です。
Q. いつまで治療が必要ですか?
→ 症状の程度やライフスタイルによって治療期間は異なりますが、IBSは完治というよりも「うまくコントロールしていく」ことが目標の病気です。
多くの方が生活習慣の見直しや薬物療法により、数か月〜半年ほどで症状が安定してくる方が多いです。

監修:豊島区おなかとおしりのクリニック 東京大塚
院長 端山 軍(MD, PhD Tamuro Hayama)
資格:日本消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本大腸肛門病学会指導医・専門医・評議員
日本外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
帝京大学医学部外科学講座非常勤講師
元帝京大学医学部外科学講座准教授
医学博士